B型肝炎訴訟和解勧告 - 国が不治の病を蔓延させた - なぜ慢性B型肝炎にかかるか
ちょうど、きょうは定期受診日だったのですが、歴史がひとつ新しくなった日でした。札幌地裁で行われていた、ぼくと同じ慢性B型肝炎患者らが国を相手に責任を追及していた訴訟に決着が付きました。地裁は国に対して、原告団と和解せよという勧告を出しました。全国で起こっている一連のB型肝炎訴訟では、初の勧告となります。
●慢性B型肝炎にかかるのは、かなり難しいことである
▼B型肝炎とC型肝炎は違う
患者数がずっと多いので、世間では肝炎というとC型肝炎を思い浮かべる人が多いと思います。C型肝炎に「慢性C型肝炎」とか「急性C型肝炎」という言い方を耳にしたことはないですよね。C型肝炎は基本的に感染すると慢性化するものなので、あえて慢性C型肝炎とは呼ばないようです。
その代わり、C型肝炎は治療がうまくいくと完治、すなわちウィルスを体から駆逐することができます。
これに対し、B型肝炎は、ある限られた条件以外は、感染しても慢性化しません。成人がB型肝炎に感染して慢性化することはありません。成人は感染すると、急性B型肝炎になって、一週間くらい寝込んだ後、免疫システムによってウィルスが撲滅され駆逐されます。そして抗体ができて、はしかのようにもう二度とB型肝炎に感染することはなくなります。
しかし、ある条件の時に感染すると、慢性B型肝炎になります。そして慢性B型肝炎になってしまうと、メカニズムから言って、一生治ることはありません。
・C型肝炎は成人でも感染して慢性化する。しかし完治する可能性はある。
・B型肝炎は成人が感染しても急性発症して自己免疫で完治する。
・慢性B型肝炎に罹ると、一生治ることはない。
▼どうすれば慢性B型肝炎に罹るか
ある条件の場合に、慢性B型肝炎に罹ります。そして、そうなると一生治りません。
その「ある条件」というのは、体の免疫システムが完成する前、つまりだいたい3歳以前にHBV(B型肝炎ウィルス)に感染することです。HBVは空気感染も接触感染もしません。感染するのは血液感染だけです。
ということは、出産時の母子感染か、乳幼児期の手術や注射などで血液が露出した状態の所にHBVが入り込む場合しかないということです。母親が慢性B型肝炎患者である場合の、産科病院での出産時の感染防止策は昭和三十年代に確立していたそうなので、消去法で考えると「いま五十歳以下で慢性B型肝炎を患っている人は乳児期に注射か手術でHBVに感染した」ということになります。
このうち、手術については、使用する器具はすべて完全に滅菌消毒することが戦前から確立していたので、普通の病院で手術時にHBVの感染が起こることは、まずあり得ません。
ここで、該当する事実として、かつて予防接種では、同じ注射針で薬を何回も吸い上げて子どもたちに次々と打っていく「針の使い回し」がごく普通に行われていたということが挙げられます。WHOから政府が何度か勧告を受け、全国の医療機関から完全に針の回し打ちが無くなったのは1980年代に入ってからです。
つまり慢性B型肝炎の人は、ほとんどが乳児期の予防接種で使い回しされた注射針によって感染した、というのは医療関係者や患者の間ではとっくに分かっていた医学的事実でした。患者は全国に百八十万人とも言われますが、本気で金銭的な賠償を行うとすると莫大な予算が必要になります。監督していた国にも、診療を行っていた医療機関にも責任があります。
科学的に証拠がはっきりしているのに、これまで公に議論されてこなかったのは、きちんと始末を付けようとすると大変なことになるからです。
* * *
札幌で原告団が結成された際に、慢性B型肝炎患者に参加するよう呼びかけがありました。ぼくは親が転勤族だったため、感染したと思われる期間に二回転居していて、どの街のどの病院でどんな注射を受けたのか、まったく分からず、自分は無理と判断しました。
ただ、この裁判の行方はずっと注目していました。
自分は、どうしてこのような一生治らない病気にかかってしまったのか? それを天下ではっきり白黒つけて欲しいと思っていました。
ぼくは様々な治療法を試し、現在は、この十年で登場した二種の新薬のおかげでウィルスの活動・増殖を最小規模に抑えています。死ぬまで毎日飲み続けなければならないのは面倒くさいですが、この薬が開発されるまでは慢性B型肝炎には決定打となる治療法が無く、ゆっくりと肝硬変に向かい肝臓がんに進んでいくのを何とか遅らせて、その前に寿命が来れば良いという風に教えられていたので、やっと安心できるようになったのです。
とは言え、絶対保証ではありません。現に、最初の新薬ラミブジン(薬剤名「ゼフィックス」)が出た時、これで希望が見えたと全国の慢性B型肝炎患者が喜んだのですが、三年ほどで効かない患者が増え始めました。三割から半数ほどの患者で、体内のHBVが変異し耐性株(対ラミブジンHBV)が発生したのです。この新種のウィルスが体内で生まれると、もうラミブジンは効かなくなります。
肝炎に限らず、抗ウィルス薬というものは、ウィルスが増殖(自分のDNAのコピーを作り出す)しようとする時に、異物を食わせてコピー作業を阻害することでウィルスを抑える原理です。この邪魔をする場所というのは抗ウィルス薬によって決まっているので、ウィルス側としては自分も生き残りたいですから、自らのDNAを一部変化させて、この抗ウィルス薬が邪魔をしようとしても回避してコピーできるように変身します。これが耐性株です。抗ウィルス薬は、メカニズムからいって、このような耐性株が発生してしまう可能性があるため、万能ではありません。
結局、そのような患者はラミブジンを飲んでいても、効くHBVと効かないHBVを体内に飼っているため、効かない方のウィルスが増殖を続け、肝細胞を破壊していきました。残念ながらぼくもその一人でした。ラミブジンを飲み始めて以来、ずっと毎月の検査でウィルス量が検出限界以下に抑え込まれていたのに、三年ほど経って、これが増え始めました。肝機能の数値も再び悪くなり出しました。二種類のB型肝炎ウィルスが住み着いてしまったのです。
そこに、二つ目の抗ウィルス薬アデフォビル(薬剤名「ヘプセラ」)が出て、これを服用し始めて耐性株の方もアデフォビルで抑えることができるようになりました。再び、ウィルス量は検出限界以下まで下がって今に至っています。しかし、いつか三つ目の耐性株(対アデフォビルHBV)が発生する可能性はあるわけです。そうなると、二つの薬をもってしても、抑えきれないということになります。
このように、抗ウィルス薬の開発とウィルスの耐性株の発生はイタチごっこのようなもので、ずっと続いていきます。
ですから、多くの慢性B型肝炎の患者は、他の様々な治療法も併用しています。ワクチン投与やインターフェロン治療などです。これらは直接ウィルスを叩くわけではないのですが、ある程度肝臓の破壊を食い止めることができます。
ぼくも、新薬が出る前にインターフェロン治療を行いました。しかしぼくの慢性B型肝炎には効果が出ませんでした。それだけならまだしも、インターフェロンの副作用の一つ、うつ病を発症し、現在まで十年間も通院治療を続けています。
慢性B型肝炎にならなければ、うつ病にかかることもなかったと思います。やはり、誰に責任があるのかはっきりさせる事を、自分の中で求める気持ちは強いです。
その意味で、きょうの和解勧告のニュースは、とても気分の良いものでした。
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コメント
人間は過ちから逃れられません。間違ったことは素直に認めて,次善の行動をとるべきです。
そういう意味では良かったですね。
Yasushiさんは,文面からだと和解の対象にはならないということですね。
残念ですが,気分が良くなる気持はよくわかります。
投稿: コモシュー | 2010.03.14 09:42
コモシューへ
コメントどうも。そうなんだ、おれは和解の対象にはならないんだ。証拠になる記録が何もないから、資格がない……。ただ記事に書いたように、この病気は医学的に特殊なので、人為的な要因以外では、まずほとんど罹らないはずなんだよ。
だから、裁判がどう転んでも関係ないって言えば関係なかったんだけど、やっぱり結果は見届けたかったんだよね。
なっちゃった病気は、運が悪かったと思うしかなくて、ずっと昔に自分が感染していることを知った時には結構モヤモヤと悩んだり苦しんだりしたけど、いまはもう頭では整理できてるな。
当時、慢性B型肝炎の仕組みを勉強して、これは体から追い出すことは不可能と分かったので、悩んでも何か変わる訳じゃないし、人生の時間を無駄にするだけだな~っていう風に何年かかけて割り切って行ったんだよね。
それでも完全に運だけの問題なのか、何かの必然があるのかというのは、やっぱり知りたいと思うよ。
知ったから病気が治るわけじゃないけど、毎月の検査でデータが悪くなったり良くなったりして一喜一憂するときに「ツいてないからこうなった」というのと、「ちゃんと犯人がいるんだ」というのでは、気の持ちようが結構違うからね。
投稿: Yasushi | 2010.03.14 15:36